2019年2月15日金曜日

ヘンペルのパラドックス

本日はヘンペルのパラドックスについて書いてみたいと思います。
ヘンペルのカラス、カラスのパラドックスなどと呼ばれることもあるようです。

「すべてのカラスは黒い」という命題についての話です。
この命題の対偶は「黒くないものはカラスではない」となります。

一般的に、「AならばB」という命題の対偶は「BでないならばAではない」。
ある命題とその対偶は同値というのは論理学の基本です。
「すべてのカラスは黒い」という命題は、「XがカラスならばXは黒い」と意味は同じ。
この対偶は「Xが黒くないならばXはカラスではない」となり、
「黒くないものはカラスではない」と同じ意味です。
「すべてのカラスは黒い」の対偶は「黒くないものはカラスではない」と考えてよいです。

「すべてのカラスは黒い」が正しいことを証明するには、
すべてのカラスを調べて、それが黒いことを確認すればよいです。
一方、「黒くないものはカラスではない」が正しいことを証明するには、
すべての黒くないものを調べて、それがカラスではないことを確認すればよいです。
この命題は元の命題と同値ですので、
黒くないもの、カラスでないものを調べることで、すべてのカラスは黒いということを証明できるのです。
普通はカラスがある性質を持つかどうか調べる場合はカラスだけを調べますよね。
何体か調べれば、ほぼ確証が持てます。
しかし、黒くないものを調べてそれがカラスではないことを確認しようとする人はいないでしょう。
この確認をいくら行ってもカラスが黒いという確証は得られそうにありません。
元の命題と対偶は同じ意味のはずなのに、実際に確認しようとすると全然違うことをやってるような気がします。
これはおかしいですよね?

というのがヘンペルのパラドックスです。


カラスは黒いという具体的で身近な内容なので惑わされがちですが、
論理的に考えればパラドックスでもなんでもありません。
おかしいと思う原因は、どれがカラスなのかが分かっているという前提で考えているからだと思います。
見ればカラスだと分かるので、カラスかどうか判断する必要があるという発想がでてこないのでしょう。
すべてのカラスについて調べるためには、
すべてのものについて、それがカラスかどうか判断する必要があるのです。

分かりやすくするために、次のような例を考えてみましょう。
たくさんのカードがあります。
カードは単色で、白、黒、黄色など様々な色がついています。
表には何も書かれていませんが、裏には「カラス」「車」「リンゴ」など、名前が書かれています。
すべてのカードは表向きになっていて、名前を確認するためにはめくってみないといけません。
すべての「カラス」のカードが黒いことを確認するためにはどうすればよいでしょうか。
どのカードが「カラス」かはすべてのカードをめくってみないと分かりません。
「カラス」だと分かったカードの色が黒であることを確認すればいいですが、
これは無駄ですね。
黒いカードの名前は何であっても問題ありませんので、めくる必要はありません。
黒以外のカードをめくって「カラス」でないことを確認すれば十分です。
これは「黒くないものはカラスではない」のを確認しているのと同じですね。
どちらにしても黒以外のカードをすべてめくる必要はあるのです。

さらに、カードに色がついていなくて、裏面に名前と色が書かれている場合を考えてみましょう。
表には何も書かれていなくて、裏に「カラス 黒」「車 黄色」「リンゴ 赤」などと書かれています。
この場合、「すべてのカラスは黒い」ことを証明するためには、
すべてのカードをめくって、「カラス」で黒以外のカードがないことを確認することになります。
「黒くないものはカラスではない」ことを証明するためには、
すべてのカードをめくって、黒以外で「カラス」のカードがないことを確認することになります。
全く同じですね。

すべてのカラスについて調べるためには、
すべてのものについて、それがカラスかどうか判断する必要があります。
すべての黒くないものについて調べるためには、
すべてのものについて、それが黒いかどうか判断する必要があります。
どちらにしてもすべてのものについて調べる必要があり、
判断の順序が変わるだけで、やることは全く一緒なのです。

実際にはカラスを見つけようとしたら、黒い鳥を探すでしょう。
この場合、カラスが黒いというのは当たり前の結果になってしまいます。
カラスがある性質Xを持つという例で考えてみましょう。
カードの表に「カラス」「ペンギン」「ツバメ」など鳥の名前が書いてあって、
裏面にはX,Y,Zのような性質が書いてあるものとします。
カラスが性質Xを持つことを確認するためには、「カラス」と書かれたカードをめくればよいです。
裏面がXでないものがあれば、その時点で間違いだと分かります。
「カラスが性質Xを持つ」の対偶は「性質Xを持たないものはカラスではない」です。
性質Xを持たないものがカラスではないことを確認するために「カラス」でないカードをめくるのは、
意味がありません。
「カラス」でないことはめくる前から分かっているからです。
性質Xを持たず「カラス」ではないカードをいくら見つけたところで確証が高まるわけではありません。
この場合も「カラス」のカードだけをめくることになります。
裏面がXでないものがあれば、その時点で間違いだと分かります。
この場合もやることは同じですね。

結局どう考えても同じことであり、何もおかしなことはありません。

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