2022年12月9日金曜日

眠り姫問題再考

以前眠り姫問題という確率の問題について考察してみましたが、

ちょっときっかけがありまして再考してみることにしました。

再考といっても結論は変わらないのですが。

以前の考察はこちら。

眠り姫問題について

http://honyoko.blogspot.com/2017/07/20170707.html


私の見解とは異なる意見に対して何がおかしいのか指摘し、

私の見解を補強していこうという目論見です。


まずはウィキペディアから眠り姫問題について、

問題文と3分の1とする立場の部分のみ引用します。


◇◇◇引用開始

問題

実験の参加者である眠り姫は、実験の内容を全て説明され、一日経過後、薬を投与され日曜日に眠りにつく。


眠り姫が眠っている間に一度だけ公正なコインが投げられる。


コインが表であった場合、

眠り姫は月曜日に目覚めさせられ、質問されたのち、再び薬を投与され眠りにつく。


コインが裏であった場合、

眠り姫は月曜日に目覚めさせられ、質問されたのち、再び薬を投与され眠りにつく。

そして翌日の火曜日にも目覚めさせられ、質問されたのち、再び薬を投与され眠りにつく。


この時投与される薬は一日の記憶を完全に忘却する記憶消去薬で、

次に目覚めさせられるまで絶対に目覚めないという作用がある。

 眠り姫が目覚め質問を受ける際、その日が何日であるか、以前に目覚めたことがあるかどうかは

決して知ることができないとする。


起こされた時にされる質問とは「コインが表だった確率は幾らか?」というものである。


どちらの場合でも、水曜日になれば眠り姫は目覚めさせられる。水曜日は質問を行わず、実験はそこで終了する。



3分の1とする立場

この立場では表の確率は1/3であると主張している。

アダム・エルガは元々この立場について次のように主張していた。

「コインは裏だった」と彼女が説明を受けそれを信じたと仮定する。

彼女にとって今日が月曜日であるという可能性と今日が火曜日である可能性は同様に確からしい。

つまり、P(裏だった前提で月曜日) = P(裏だった前提で火曜日)であり、したがって

P(裏で火曜日)= P(裏で月曜日)となる。

今、眠り姫が目覚めて質問された時に、今日が月曜日だと説明を受けそれを信じたとする。

コインが表であった時の客観確率は裏であった時の確率と等しいため、

P(月曜日だった前提で裏)= P(月曜日だった前提で表)であり、したがって

P(裏で火曜日)= P(裏で月曜日)= P(表で月曜日)となる。

これら3つの結果は網羅的であり、1つの試行に対して排他的であるため、それぞれの確率は、3分の1となる。

◇◇◇引用終了


目覚めた場合、次の3つの可能性が考えられます。

A:コインは表で今日は月曜

B1:コインは裏で今日は月曜

B2:コインは裏で今日は火曜

A,B1,B2である確率をそれぞれP(A),P(B1),P(B2)とします。

問われている確率はP(A)ですね。

また、

C1:コインは表

C2:コインは裏

Y1:今日は月曜

Y2:今日は火曜

という事象も考えます。

上記の1/3派の考えでは、

P(C1|Y1)=P(C2|Y1)なのでP(C1∩Y1)=P(C2∩Y1)

としています(C1∩Y1=A、C2∩Y1=B1)。

条件付き確率の式から、

P(C1|Y1)=P(C1∩Y1)/P(Y1)

P(C2|Y1)=P(C2∩Y1)/P(Y1)

なので

P(C1∩Y1)=P(C1|Y1)*P(Y1)=P(C2|Y2)*P(Y1)=P(C2∩Y1)

つまり、P(A)=P(B1)

P(B1)=P(B2)なのでP(A)=P(B1)=P(B2)

P(A)+P(B1)+P(B2)=1なので、P(A)=P(B1)=P(B2)=1/3

となるわけですね。

また、実験の結果を記録して頻度を計算するという考えもあります。

実験を繰り返して、目覚めた時にA,B1,B2のどれだったかを記録すると、

記録回数の期待値はどれも同じになりますので、P(A)=P(B1)=P(B2)。

これらの考えは一見説得力がありますが、間違っています。


仮にこの1/3とする立場が正しかったとしましょう。

もう一人、寝太郎君にも参加してもらう実験を考えてみます。

彼に対しては裏と表の実験の内容を入れ替えます。

使うコインは1枚のみ。

つまり、次のような実験をしてみます。


実験の参加者である眠り姫と寝太郎は、実験の内容を全て説明され、

一日経過後、薬を投与され日曜日に眠りにつく。

彼らが眠っている間に一度だけ公正なコインが投げられる。


コインが表であった場合、

眠り姫は月曜日に目覚めさせられ、質問されたのち、再び薬を投与され眠りにつく。

寝太郎は月曜日に目覚めさせられ、質問されたのち、再び薬を投与され眠りにつき、

翌日の火曜日にも目覚めさせられ、質問されたのち、再び薬を投与され眠りにつく。


コインが裏であった場合、

眠り姫は月曜日に目覚めさせられ、質問されたのち、再び薬を投与され眠りにつき、

翌日の火曜日にも目覚めさせられ、質問されたのち、再び薬を投与され眠りにつく。

寝太郎は月曜日に目覚めさせられ、質問されたのち、再び薬を投与され眠りにつく。


眠り姫の立場では、表であった確率は1/3。

寝太郎の立場では、表であった確率は2/3。

ということになるはずです。

投げられたコインは同じなのに表であった確率は異なります。

これは矛盾ですよね。


これは主観確率だから立場によって変わることがあるという人もいます。

主観確率というのは個人の好みや思い込みで勝手に決めた確率のことで、

数学的に計算するものではないんですが。

3分の1とする立場のところで「客観的確率」という言葉が出てきましたが、

客観的に計算できるならそれが正しい確率でしょう。

客観的に考えたら、コインの表、裏が出る確率は1/2としか思えませんね。

1/2が間違っているという説得力のある主張は見たことがありません。

他の方法で計算すると異なる答えになるから間違っているんだろうというくらい。

1/2も1/3もどちらも正しいという人もいます。

問題文の解釈が異なっていて、違う確率を計算してるだけ、

事前確率は1/2だけど条件付き確率だと1/3になるとか。

解釈の違いだと主張している人のブログ等を読んでみましたが、

私には同じものとしか思えませんでした。

1/2が唯一の正解だと私は考えています。


そもそも確率とはどういうものなのか基本に立ち返って考えてみましょう。

先日確率の基本について書きましたので参考にしてください。

確率の基本


確率とは、試行によって起こる事象の起こりやすさを数値にしたものであり、

試行とは、同じ条件で繰り返すことができ、その結果が偶然によって決まるものです。

特定の事象が起こる確率はどの試行においても同じです。

ある事象が起こる確率がpならば、

1回目の試行においてその事象が起こる確率はp、

2回目の試行においてその事象が起こる確率はp、

・・・

n回目の試行においてその事象が起こる確率はp、

・・・

とならなければいけません。

これが前提になっているので、

事象が起こる回数(の期待値)の割合がその事象の起こる確率と一致します。

条件付き確率の式もこの前提があってのものです。


上記のP(A),P(B1),P(B2)の計算では、目覚めるということを試行と考えています。

しかし、これは試行の条件を全く満たしていません。

まず、目覚めることによって結果が変化するわけではありません。

コインの裏表、今日が何曜日かということは目覚める前に決まっていることであり、

偶然が作用するところがありません。

A,B1,B2の中から(何らかのルールによって)一つを選択するという試行と考えても、

1回目にB1が選ばれた場合、2回目は必ずB2にならないといけませんので、

これも試行とは言えません。

試行の条件を満たしていないので、条件付き確率の式も頻度の計算も意味がありません。

意味がない計算をしているから間違った答えがでるのです。


この実験で試行といえるのはコインを投げるところだけです。

目覚めることによって何の情報も増えませんので、コインが表であった確率は1/2のまま。

単純明快です。

ちなみに、今日が月曜だと知らされた場合も、表であった確率は1/2です。

月曜以外のことを考えなくてもいいのですから、

コインが表であった場合は月曜に起こされる

コインが裏であった場合は月曜に起こされる

という実験をしたのと同じことですね。

これは明らかに同様に確からしいです。


コインを投げるのを試行と考えた場合に、P(B1),P(B2)はどう計算すればいいのか、

疑問に思う人もいるでしょう。

ちょっと考えてみたいと思います。

実験の手順に従えば、まずコインを投げて、

表が出た場合には月曜に目覚めます。

従って、P(A)=1/2、P(B1)+P(B2)=1/2。

裏が出た場合はB1とB2の両方が起こり、偶然どちらかに決まるわけではありません。

これは確率の問題ではないですよね。

眠り姫の視点では認識できる目覚めは1回だけ。

月曜の目覚めと火曜の目覚めはどちらも必ず起こるものであり、

眠り姫はそれらを区別することはできません。

どちらの場合も、

・実験を開始しました

・今、目覚めました

というように全く同じ経験になるのです。

この条件であれば月曜であり火曜でもあると思うしかないのではないでしょうか。

月曜でもあり火曜でもある状態で1回目覚める

という事象だと考え、これをB1+B2とします。

つまり、1/2の確率で事象Aが起こり、1/2の確率で事象B1+B2が起こる。

P(A)=P(B1+B2)=1/2

確率の問題として考えられるのはここまででしょう。

事象B1+B2が起こった場合、月曜なのか火曜なのかを聞かれたら、

どちらでもあるのだから半分ずつということでP(B1)=P(B2)=1/4

と、無理矢理考えるしかないでしょう。

これは厳密には確率ではないので、条件つき確率の式とかを使ってはいけません。

月曜という前提でコインが表であった確率を無理矢理計算してみると、

P(C1|Y1)=P(C1∩Y1)/P(Y1)=P(A)/(P(A)+P(B1))=2/3

となりますが、これは間違いです。

先程考察したように、この場合も確率は1/2です。

このB1とB2の両方がセットで起こるというところが普通の確率からかけ離れたところで、

それを通常の確率と同じように扱って計算してしまうところが間違いの原因ですね。


眠り姫問題の答えは1/2であり、それ以外の答えは間違いなのです。

4 件のコメント:

  1. 素人の戯言2023年7月31日 22:33

    http://honyoko.blogspot.com/2017/07/20170707.html にコメントした者ですが、こちらにもコメントします。

    引用されているウィキペディアの問題は、http://honyoko.blogspot.com/2017/07/20170707.html の問題とは内容が異なります。
    『どちらの場合でも、水曜日になれば眠り姫は目覚めさせられる。水曜日は質問を行わず、実験はそこで終了する。』の部分ですが、この条件があることにより答えが変わってしまいます。


    前回と同様に、「①眠り姫本人の立場での確率を求める場合」、「②実験を俯瞰する第三者的な立場での確率を求める場合」 、「③実験者の立場での確率を求める場合」のそれぞれについて考えてみます。


    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

    ①【眠り姫本人の立場での確率を求める場合】


    この場合、眠り姫本人の視点で起こりうる事象(事前事象)は次のA1、A2、B1、B2、B3の5通りです。

    A1 :コインが表-今日は月曜日(質問あり)
    A2 :コインが表-今日は水曜日(質問なし)
    B1:コインが裏-今日は月曜日(質問あり)
    B2:コインが裏-今日は火曜日(質問あり)
    B3:コインが裏-今日は水曜日(質問なし)

    それぞれの確率は、
    A1=1/2×1/2=1/4
    A2=1/2×1/2=1/4
    B1=1/2×1/3=1/6
    B2=1/2×1/3=1/6
    B3=1/2×1/3=1/6

    コインが表の場合、眠り姫は月曜日か水曜日のどちらかにランダムでタイムスリップしたような状態となり、
    コインが裏の場合は、月曜日、火曜日、水曜日のどれかにランダムでタイムスリップしたような状態となります。


    (質問)「コインが表だった確率は幾らか?」
    ⇒答え
     実験者に質問されたこと自体が情報となり、今日が水曜日である可能性が排除されます。
     言い換えれば、「実験者に質問された時に、コインが表である条件付き確率」を求めればよいということなので、  

     P=A1/(A1+B1+B2)=3/7
     
     なお、この確率は月曜日に質問されても火曜日に質問されても同じです。


    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

    ②【実験を俯瞰する第三者的な立場での確率を求める場合】

    第三者的な立場の場合、想定される事前事象は以下の通りです。
    (第三者はコイン投げの結果を見ていないものとします。)

    A:コインが表-月曜日に起こされて質問あり-水曜日に起こされて質問なし
    B:コインが裏-月曜日に起こされて質問あり-火曜日に起こされて質問あり-水曜日に起こされて質問なし

    それぞれの確率は、
    A=1/2×1×1=1/2
    B=1/2×1×1×1=1/2


    (質問)「コインが表だった確率は幾らか?」

    【質問が月曜日にされた場合】
     ⇒答え P=A/(A+B)=1/2

    【質問が火曜日にされた場合】
     ⇒答え 
      事前事象のAが排除されるので、
      P=無/B=0


    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

    ③【実験者の立場での確率を求める場合】

    実験者の立場の場合、想定される事前事象は次の通り

    A:コインが表-月曜日に起こして質問あり-水曜日に起こして質問なし
    B:コインが裏-月曜日に起こして質問あり-火曜日に起こして質問あり-水曜日に起こして質問なし

    それぞれの確率は、
    A=1/2×1×1=1/2
    B=1/2×1×1×1=1/2


    (質問)「コインが表だった確率は幾らか?」

    【質問が月曜日にされた場合】
    ⇒答え
     コイン投げの結果が表の場合、P=A/A=1
     コイン投げの結果が裏の場合、P=無/B=0


    【質問が火曜日にされた場合】
    ⇒答え 
     事前事象のAが排除されるので、
      P=無/B=0



    まとめ
    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

    (質問)「コインが表だった確率は幾らか?」
    【月曜日に質問された場合】
      眠り姫の立場の確率⇒3/7
      第三者の立場の確率⇒1/2
      実験者の立場の確率⇒1 or 0

    【火曜日に質問された場合】
      眠り姫の立場の確率⇒3/7
      第三者の立場の確率⇒0
      実験者の立場の確率⇒0

    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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    1. 確かにちょっと違いますが、同じことです。
      今日が水曜日ではないという条件での確率は、
      今日が水曜であるという事象が元々なかったときの確率と同じになるはずです。
      それが異なる値になるのは計算が間違っているということです。
      私は条件付き確率の式を使った計算には意味がないと主張しています。

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    2. 素人の戯言2023年8月5日 17:46

      この問題の場合、実験開始前までは被験者が水曜日に起こされる可能性がありますが、
      実験者から質問されなかったことにより水曜日ではなかったことが判明します。
      「最初から水曜日ではないことが分かっている」と「後から水曜日ではないことが分かった」は別物であり、混同は禁物です。

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    3. 「眠り姫問題」の方にも同様の書き込みがあり、
      そちらに反論を書きましたのでこちらには書きません。

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