前回までの話
ぐんぐん群がわかる
ぐんぐん群がわかる2
ぐんぐん群がわかる3
ぐんぐん群がわかる4
g(m)=mとなるGの元gの集合について考えてみましょう。
群Gが集合M上で働くとします。
Mの元mについて、Gm={g∈G|g(m)=m}とします。
Gの単位元をeとすると、e(m)=eですのでeはGmの元です。
g1,g2がGmの元だとすると、g1(m)=g2(m)=mですので、
(g1*g2)(m)=g1(g2(m))=g1(m)=m
よって、g1とg2の積もGmの元です。
gの逆元を(-g)とすると、(-g)(m)=(-g)(g(m))=((-g)*g)(m)=e(m)=m
逆元もGmの元です。
よって、GmはGの部分群です。
これをmの固定部分群といいます。
mを固定して変化させないような変換から成る群ということですね。
前回例に出しました
Mは黒玉4個と白玉4個を八角形状に並べる配置の集合
Gは45度刻みの回転操作g1,g2,g3,g4,g5,g6,g7,g8から成る群の場合
m=●○●○●○●○の場合、Gm={g2,g4,g6,g8(=e)}
このとき、G(m)={●○●○●○●○,○●○●○●○●}={m,g1(m)}
m=●●○○●●○○の場合、Gm={g4,g8}
このとき、G(m)={m,g1(m),g2(m),g3(m)}
m=○○○●○●●●の場合、Gm={g8}
このとき、G(m)={m,g1(m),g2(m),g3(m),g4(m),g5(m),g6(m),g7(m)}=G
GmとG(m)は割り算の除数と商のような関係ですね。
割り算といえば剰余。剰余といえば以前に剰余類というものを考えました。
Gmを法とする剰余類を考えてみましょう。
HがGの部分群であり、a∈Gのときに、
aのHを法とすると左剰余類は、aH={ah|h∈H} でした。
Hは群なので単位元eを含みます。
ae=aですので、aはaHの元です。
g∈G,H=Gmについて、gH={gh|h∈Gm}
gが単位元eの場合は、gH=eH={h|h∈Gm}=Gmです。
g,h∈Gmの場合、gh∈Gmですので、gHはeHと共通の元を持ちます。
剰余類の性質から、gH=eH=Gmです。
g1,g2∈Gとします。
g1(m)=g2(m)の場合、(-g1)(g1(m))=mより(-g1)(g2(m))=m
これは(-g1)g2がGmの元であることを示しています。
よって、あるh∈Gmがあって、(-g1)g2=h となります。
両辺にg1を掛けると、g2=g1h ですので、
g2はg1の剰余類の元であり、g1とg2の剰余類は同じだと分かります。
今の議論を逆にたどれば、g1とg2の剰余類が同じであればg1(m)=g2(m)といえます。
つまり、g(m)の値と剰余類は一対一に対応します。
g(m)の値の集合は軌道G(m)でした。
軌道G(m)の元とGmを法とする剰余類は一対一に対応します。
Gが有限群の場合、部分群も有限群であり、剰余類の個数や元の個数も有限です。
各剰余類の元の個数がすべて等しいことは以前証明しました。
軌道G(m)の元と剰余類が一対一に対応するということは、
位数|G(m)|と剰余類の個数が等しいということです。
剰余類の一つがGmですので、剰余類の元の個数は|Gm|です。
以上より、
|G|=|G(m)||Gm|
という関係が導かれました。
集合M上に働く有限群Gがあったとき、任意のm∈Mについて、
Gの位数は、mの固定部分群の位数とmの軌道の位数の積になるのです。
ここで黒玉と白玉の例に戻ります。
Mは黒玉4個と白玉4個を八角形状に並べる配置の集合
Gは45度刻みの回転操作からなる群とします。
ある配置mについて回転して同じになるものは軌道G(m)です。
回転して同じになるものは同じとみなした場合の配置の数、
つまり黒玉4個、白玉4個の円順列の数は軌道の個数と等しいのです。
軌道の個数が計算できれば、円順列の個数が分かります。
群Gの作用によって集合Mはいくつかの軌道に分割されます。
軌道がx個あるとします。
そのうちの一つに注目します。
その軌道の元の個数をkとすると、その軌道の任意の元mについて、
|G|=k*|Gm|
が成り立ちます。
|Gm|=|G|/kですので、
その軌道に属するk個の元の固定部分群の位数はすべて等しく、
それらを合計すると|G|になることが分かります。
つまり、|G|=Σ|Gm| (m∈ある一つの軌道)
軌道一つ分の合計が|G|になりますので、すべての軌道についての合計はx*|G|となります。
すべての軌道について合計することはすべてのm∈Mについての合計になりますので、
x*|G|=Σ|Gm| (m∈M) です。
Σ|Gm| (m∈M) = Σ|{g∈G|g(m)=m}| (m∈M)
ですので、計算の順序を変えて、
Σ|{m∈M|g(m)=m}| (g∈G)
としても同じ値になるはずです。
g∈Gに対して、g(m)=mとなるようなMの元mの個数をN(g)とすると、
ΣN(g) (g∈G) と書けますので、
x*|G|=ΣN(g) (g∈G)
x=1/|G|*ΣN(g) (g∈G)
という式で軌道の個数xが計算できることになります。
この結果はバーンサイドの補題などと呼ばれる内容になっています。
補題というのはある定理を証明する途中で示す命題で、補助定理とか中間定理といった意味です。
ではこの補題は一体何の定理を証明するためのものだったのか。
疑問に思って調べてみたのですが、よく分かりませんでした。
恐らくポリアの定理ではないかと思われますが、確信はありません。
バーンサイドの補題は円順列の数え上げとなどに非常に役に立つ実用的なもので
こちらの方がよく使われているのではないかと思います。
では具体的に黒玉4個と白玉4個による円順列の個数を計算してみましょう。
Mは黒玉4個と白玉4個を八角形状に並べる配置の集合。
Gは45度刻みの回転操作からなる群でした。
各回転操作について、その操作で変化しない配置の数を数えて合計し、
それをGの位数8で割ればよいです。
0度の回転の場合、すべての配置が不変です。
Mの位数は8C4=70ですので70個です。
45度の回転の場合、隣合う玉の色が同じでないといけませんので、0個です。
45*2度の回転の場合、一つ置きの4個の玉の色が同じでないといけません。
不変となる配置は、●○●○●○●○、○●○●○●○●の2個です。
45*3度の回転の場合、2つおきに玉を拾っていくとすべての玉を拾うことになります。
不変になるのはすべての玉の色が同じときだけ。不変な配置は0個です。
同様に45*5,45*7の場合も0個です。
45*4度の回転の場合、最初の4個と最後の4個の配置が同じにならないといけません。
最初の4個は黒玉2個白玉2個の任意の配置になりますので、個数は4C2=6個です。
45*6度の回転の場合、これは逆向きに45*2度回転したものと同じですので、
不変な配置の個数は45*2度の場合と同じで2個です。
以上より、円順列の個数は(70+2+6+2)/8=10個です。
このように明快に計算することができるのです。
次はこの結果を一般化してみましょう。
黒玉と白玉が合計n個、そのうちk個が黒玉だとします。
このn個の玉による円順列の個数を計算しましょう。
Mはn個の玉を正n角形の頂点に置いたときの配置の集合、
Gは360/n度刻みの回転からなる群とします。
n個の回転を、1個ずらす回転からn個ずらす回転までのn個と考えます。
iを1以上n以下の自然数とし、i個ずらす回転に対する不変配置の個数を考えます。
この回転をn回行うと、必ず元の配置に戻ります。
ある玉はn回の回転でniだけずれますので、i周して元の位置に戻るのです。
iとnが互いに素(iとnの最大公約数が1)の場合、
ある玉が元の位置に初めて戻るのがk回目の回転のときだとします。
kiはnの倍数でないといけませんが、iとnは1以外に公約数をもちませんので、
kはnの倍数です。
よってk=nです。
n回の回転の途中はすべて異なる位置にきますので、n個の位置をすべて通ります。
つまり、iとnが互いの素の場合、すべての玉の色が同じでないといけないということです。
iとnが互いに素でない場合、iとnの最大公約数をαとします。
n個の玉をα個ずつのブロックに分割してみます。
i個ずらす回転はこのブロックをi/α個ずらす回転です。
n個の玉をiずらす回転は、n/α個のブロックをi/α個ずらす回転です。
n/αとi/αは互いに素ですので、各ブロックの中は同じ配置でないといけません。
逆に、各ブロック内の配置が同じであれば、不変配置になることは明らかです。
つまり、n個の玉を同じ配置のブロックに分割することができるそれぞれの場合において
そのブロックをずらす個数がブロック数と互いに素な回転の個数を数えて合計すればよいのです。
n個の玉をs個のブロックに分割できるとしましょう。
k個の黒玉についてもs個のブロックに等しく分割できないといけませんので、
sはnとkの公約数です。
逆にsがnとkの公約数であれば、分割可能です。
各ブロックはn/s個の玉のうちk/s個が黒玉です。
ブロック内の配置は自由ですので、
配置の総数はn/s個からk/s個を取り出す組み合わせの数。
これをC(n/s,k/s)と書くことにします。
(nCkという形だと分かりにくいのでC(n,k)という形にしました)
配置の総数はこれをすべてのnとkの公約数について足したもの
ΣC(n/s,k/s) [sはn,kの公約数]
と書けます。
それぞれの配置において、
そのブロックをずらす個数がブロック数と互いに素な回転の個数を数えて合計すればよいのでした。
ブロック数はs個ですので、そのような回転の個数は、
1以上s以下でsと互いに素な自然数の個数
に等しいです。
これをφ(s)と書くことにします。
これはオイラーのトーティエント関数と呼ばれるもので、
この関数を使うと、各回転における不変配置の数を合計したものは
Σφ(s)C(n/s,k/s) [sはn,kの公約数]
と計算できます。
回転による群の位数はnですので、軌道の個数はこれをnで割ったものです。
次回はトーティント関数について考察してまとめます。
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