2017年12月14日木曜日

小説の視点について 前編

ゲームにFPSとかTPSというのがありますね。
それぞれFirst Person Shooting、Third Person Shootingの略で、
一人称視点、三人称視点のシューティングゲームということです。
一人称視点は普段私たちが見ている視点で、自分自身の顔は見えません。
自分の目の位置にカメラを置いて撮影したような光景が見えます。
自分の顔や後姿は見えません。
一方、三人称視点ではカメラの位置が離れたところにある光景になります。
第三者が自分を見ているように、自分の顔や後ろ姿を客観的に見ることができます。

小説においても同様に、
自分に見えるもの聞こえるもの感じたものや思考をそのまま綴ったものが一人称視点、
他人の言動や思考、周りの様子などを客観的に綴ったものが三人称視点。
三人称視点は神の視点などとも言われます。

言葉で説明してもよく分からないかもしれませんのでサンプルを書いてみました。
まずは一人称視点。

◇◇◇
目を覚ますと母の顔が見えた。
「おはよう、マイン。今日は とても 大切な日。
王様に 旅立ちの許しを いただく日だったでしょ」
そう。私はマイン。今日は私の16歳の誕生日なのだ。
「娘のおまえを この日のために
勇敢な男の子のように育てたつもりです」
全く余計なことを。
私は普通の女の子でいたかったのに!

私は仕方なく城に向かうと、王様に挨拶をした。
「父のあとをつぎ 旅に出たいという そなたの願い
しかと 聞きとどけたぞ!」
願ってません!
母が勝手にお膳立てしただけなの!

「そなたなら きっと 父の遺志をつぎ 世界を平和に みちびいてくれるであろう。
マインよ。
魔王を倒してまいれ!」
か弱い女の子に無茶なことを言わないでください!
しかし、これはうるさい母親から逃げ出すチャンス。
この町を離れ、母の目の届かないところでひっそり暮らすのよ。

「町の酒場で仲間を見つけ これで仲間たちの装備を整えるがよかろう」
王様は50Gと武器 防具を渡してくれた。
えっと。ひのきの棒に棍棒に、旅人の服?
マジしょぼい。
これで魔王を倒してこいって、ひどくない?
しかも、酒場で仲間を見つけてこいって。
私、未成年ですから!

「では また 会おう!マインよ!」
あの~もう少しましなものをいただけませんか?
「では また 会おう!マインよ!」
ところで、魔王ってどこにいるんですか?
「では また 会おう!マインよ!」
王様って、実はバカですか?
「では また 会おう!マインよ!」
同じことしか言わなくなった王様との会話はあきらめ、
私はさっそく町を出ることにした。
うふふん。
やっと自由になれるんだよ!
るんるん歩いていると、まもののむれがあらわれた!
勇敢な男の子として育てられ、魔王を倒すことになっているこの私に襲い掛かってくるとは
身の程知らずにも程があるよね。
スライムが体当たりしてくる。
私が受けたダメージはたったの1。
私はそのスライムを攻撃してやっつけた。
私強い!
他のまものたちが攻撃してくるが、ダメージはすべて1。
私はまた1匹のまものを切り捨てる。

楽勝だと思っていたのに気づいたら視界が真っ赤になっていた。
おかしい。こんなはずでは。
1回のダメージはたった1なのに、それが積もり積もって大ダメージになっていたらしい。
残りHPが2になってしまった。
まものはあと3匹残っている。
これはまずい。どうしよう。
逃げちゃう?
逃げちゃってもいいよね?
よし!逃げよう。

逃げ切った。
ふう。
ちょっと危なかったけれど、助かった。
いったん町に戻ろう。
町に向かって一歩踏み出すと、
まもののむれがあらわれた!
のおおおおおっ!
私マジ迂闊。
こうなったら逃げるしかない!
しかし まわりこまれてしまった!
「・・・あ」
私は意識を失った。
◇◇◇

一人称視点は話に入りやすいです。話の流れが分かりやすく、臨場感があります。
主人公になり切って楽しむことができます。
但し、主人公の言動があまりに突飛だったり、自分と相容れないものであったりすると、
感情移入ができなくて話に入れないこともあります。
一人称視点の場合、主人公の知らないことや認識できなかったことは書かかれません。
主人公以外の人物の心理描写などはされません。
主人公が誤認したことは誤認したまま書かれます。
これに徹し切れていない小説もありますが。


三人称視点は自由度が高いです。
誰も認識していない出来事も書けますし、視点をあちこちに変えることもできます。
同時に複数の場所で物事が進行する場合、一人称視点では他の出来事については伝聞で知るしかありません。
三人称であれば、視点を変え(時間も巻き戻して)それぞれの視点での描写が可能です。
複数の人の心理描写ができるのも三人称視点の強みです。
心理描写を全くせず、人間が知覚できるものに限ったものもあります。
視点がころころ変わると話の流れが分かりにくくなったり、テンポが悪くなったり、
全く感情移入ができなくなったりもします。
視点が切り替わったときに、しばらく読まないと誰の視点になったのか分からないものがしばしばあります。
切り替わったことが分かりにくくて混乱するものもあります。
自由度が高い分、読みやすさは筆者の力量に大きく左右されます。

では、三人称視点のサンプルです。

◇◇◇
「こらマイン。目を覚ませ」
王様はマインの頬をペチペチ叩いた。
「・・・あれ?王様の声が聞こえる。どこですか?」
マインが目を開く。
王様はマインの呑気な声に呆れて叱りつける。
「おお、マインよ!死んでしまうとは なさけない!」
「えっ!?私、死んでしまったのですか?」
「そうだ。蘇生や諸手続きの手数料として所持金の半分をもらったぞ」
「そんなひどいです!わたくしのゴールド!」
マインは涙目で訴える。
「うるさい。もともとは私のお金ではないか」
「それはそうですけど」
「酒場で仲間を見つけるように言ったであろう?どうして一人で町を出たのだ」
「だって、わたし未成年ですもん。」
「16歳ともなればもう一人前だ。酒場で社交くらいできなくてどうする」
「ううっ。がんばります」

マインは酒場へ行くと、受付のお姉さんに話しかけた。
「ここは 旅人たちが仲間をもとめて集まる 出会いと別れの酒場よ。
何を おのぞみかしら?」
無料で仲間を雇ってこき使うことができるらしい。
気にいった人がいなければ自分で登録することもできるという恐ろしいシステムである。
マインはすすめられた通り、戦士、僧侶、魔法使いの3人を仲間にし、町の外に出た。
すぐさま襲いかかってくるまものたち。
4人もいると敵の攻撃は分散されるし、仲間の行動も的確で頼もしい。
さくさく敵を倒して隣町に到着。
「どうせならもっと都会に住みたいわね」
マインは3人をひきつれてさらに遠方を目指した。
3人は一言も文句を言わず、黙々とついていく。
仲間というより奴隷である。
レベルが上がって強いまものを倒せるようになると得られるお金も増えていく。
魔王を倒すつもりは全くないけれど、お金は欲しいということでレベルを上げるマイン。
あちこちの塔やダンジョンを攻略し、不思議なカギも手にいれた。
そのカギを使えば鍵のかかった扉を開くことができるのだ。
マインは牢屋の囚人を逃がしたり、お城の宝物庫を荒らしたりとやりたい放題。
そんなマインに不満を持ち始めるものも現れだした。
◇◇◇

一人称と三人称が混ざったようなものもあります。
一人称でありながら、周りの様子は神の視点で描写したり、
三人称でありながら、それぞれの心理を一人称のように描写したり。
読みやすければなんでもいいんですけどね。


サンプル小説が思いがけず長くなってしまいましたので、前編、後編に分けることにしました。
後編は明日。一人称、三人称以外の視点についてです。

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