2018年2月13日火曜日

数学の本質

私の考える数学の本質は抽象化です。
抽象化とは情報を切り捨てるということです。

例えば、山本太郎君がりんごを5個持っているととしましょう。
大きさにはばらつきがあり、形が悪かったり虫が食っていたりするものもあります。
太郎君は川田花子さんに一番おいしそうだったりんごを1個あげました。
今、太郎君が持っているりんごはいくつでしょうか。

個数を考えるだけなら、それ以外の情報は余計なものです。
余計な情報を切り捨てると、
5-1=4
とこれだけで済みます。

五万円持っていて、一万円使いました。今いくら持っているでしょうか。
5メートルのロープから1メートルを切り取ると残りは何メートル?
気温が5度から1度に下がりました。何度下がったでしょうか。
5リットルの水から1リットル汲み出すと残りは何リットル?
東に5km進み西に1km進みました。最初の地点から何kmのところにいますか?
これらも全部、5-1=4という計算で済むのです。

個数とかお金とか長さとかを数値という一律で扱えるもので表し、
使うとか切り取るとか汲み出すといった操作を引き算という演算にしています。
必要な情報だけを残して記号化することによって様々な事象を簡潔に記述できるのです。
何もないという状態や分からないものにさえ名前をつけて記号化してしまいます。
何もない状態は0とか空集合φ、分からないものは未知数xとかですね。
虚数のiとか、存在しないものにさえ名前をつけてしまうのです。
次の問題を考えてみましょう。

ある人が車でA町からB町へ行き、同じ道を使ってA町まで戻りました。
行きも帰りも走行速度は60kmでした。
次の日も彼は同じ時刻に出発し、同じルートでA町からB町、B町からA町へと移動しました。
行きは時速70kmで走りましたのでB町に着いたのは昨日より早かったのですが、
帰りはエンジンの不調であまりスピードが出せず、結局A町に戻った時刻は昨日と同じでした。
帰りも一定の速度で走ったとすると、そのときの走行速度は時速何kmだったのでしょうか。

距離はkm、速度はkm/時、時間は1時間単位で考えることにして、単位は省略します。
帰りの走行速度は分かりませんのでxとしましょう。
1日目にかかった時間を計算しようとしたら、AB間の距離が分からないので計算できませんね。
では、AB間の距離をyとしましょう。
1日目にかかった時間は 2y/60 と計算できます。
2日目にかかった時間は y/70+y/x です。
2y/50=y/60+y/x
yは0ではないのでyで割ると、2/60=1/70+1/x となり、yが消去できます。
これを解くと、x=52.5 と簡単に答えを求めることができます。

幾何学も抽象化から始まっています。
点は大きさをもたないものとか線は幅を持たないものとか言っておいて、
点が集まると線になり、線が集まると面になるとか、
真面目に考えるとわけが分かりません。
さらに抽象化を進めると位相幾何学とかになっていきます。



抽象化を進めると、全く違うものに見えていたことが実は同じものとして考えられたりします。
多くのものに共通する性質に注目することによって、同時にたくさんのものについて考えられます。
抽象化は一般化でもあるのです。
抽象化されたものは多くのものに適用できるので応用範囲が広いのです。

数学は難しいものではありません。
逆に、ものごとを簡単に考えられるようにと余計な情報を切り捨てたものなのです。
数式もものごとを簡潔に明快に記述できるように考えられたものです。
数式を使わないことをアピールしている本があったりしますが、本末転倒です。
余計な情報を切り捨てているので、無味乾燥とかイメージが湧かないというのは当然です。
具体性を捨てて共通する概念のようなものに名前をつけるため、専門用語が増えることになります。
それをどんどん積み上げていくので一歩ずつ進んでいかないとついていけなくなりがちです。
抽象化に慣れると現実世界の問題解決にも役に立ちます。
余計な情報を切り捨てることによって、問題の本質だけに注目することができるのです。
ほとんどの人にとって数学は将来何の役にも立たたないなどと言われますが、
抽象化と論理的思考の訓練ととらえれば役に立っています。

足し算、掛け算、割り算、引き算は2つの数から1つの数を計算するという意味では同じものです。
他にも2つの数の平均を求めるとか、それぞれの平方を足すという計算も考えられます。
このような概念は二項演算と呼ばれます。
さらに抽象化を進めると、これは2つのものから1つのものを作り出す操作と考えられます。
操作するものは数に限らず、操作も計算とは限りません。
赤色に青色を混ぜて紫色を作るとか、2つのあみだくじをつなげて1つのあみだくじにする
など様々な操作が考えられます。
数学的にこういうものを扱う群とか環とか体といった概念があります。
というわけで次回は群について書いてみたいと思います。

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