2018年12月21日金曜日

モンティ・ホール問題と確率の基本

モンティ・ホール問題は、確率の問題です。
答えを間違えやすい問題として有名です。
この問題が出てくる小説もあります。
私は少なくとも5冊は読みました。
しかしながら、とても理解しているとは思えない内容のものもありました。
モンティ・ホール問題を解説しているサイトでも間違っているものがちょくちょくあります。
今回は、よくある間違いの紹介と確率の基本について書いてみたいと思います。

この問題は、あるテレビ番組で行われていたゲームを題材にしたもので、
その番組の司会者モンティ・ホールの名前がついています。
そのゲームは次のような内容です。

プレイヤーの前に3つの扉があります。
1つの扉の後ろには車が置いてあり、
他の2つの扉の後ろにはヤギがいます。
プレイヤーが選んだ扉を開いて、
ヤギがいたらハズレ、
車があったら、賞品として車がもらえます。


これを踏まえて問題です。

プレイヤーが一つの扉を選びました。
司会者はその扉を開けず、他の2つの扉のうち1つを開けて、ヤギがいることを示しました。
そしてプレイヤーに、今なら扉を選びなおしてもいいと言います。
プレイヤーは選択を変えた方がいいでしょうか?


選択を変えても変えなくても当たる確率は変わらないと思うかもしれませんが、
実は変えた方が当たる確率は高くなります。
なぜなら・・・
というような解説がされているものは、この時点で間違っています。
何が間違っているかというと、問題文です。
この問題文ではモンティ・ホール問題とは言えません。
司会者は今回ハズレの扉を開けてみせましたが毎回扉を開けるとは限りません。
上の文章だと、いつもはこんなことはしないけれど、今回だけ特別に開けたという感じですね。
司会者が意地悪で、当たりの扉が選ばれたときだけハズレの扉を開けて見せるとしましょう。
この場合、選択を変えなければ当たる確率は1で、変えた場合に当たりになる確率は0です。
逆に、ハズレの扉が選ばれたときだけ、開けて見せる司会者だった場合、
選択を変えなければ当たる確率は0、変えて当たりになる確率は1です。
プレイヤーの選択に関係なく、開ける開けないを無作為に決める可能性も考えられます。
この司会者は親切そうだから、変えた方が当たりになる確率は高いだろうとか、
そんなことを考えなくてはいけないなんて、これはもう数学の問題ではありませんね。
つまり、この問題文では数学的に確率を計算することは不可能なのです。
モンティ・ホール問題では、必ず司会者がハズレの扉を一つ開けて見せる。
それが事前に分かっているということが必要です。

細かいことを言うと、3つの扉のそれぞれが当たりである確率は等しいという条件も明記するべきです。
A,B,Cの3つの扉のうち、一つが当たりです。Aを選んだとき当たりである確率は?
という問題は厳密に言えば計算不能なのです。
1/2の確率でA、1/4の確率でB、1/4の確率でCが当たりになる仕組みだとして、
Aが当たりということに決まったとしましょう。
これを全部知っている人にとっては、Aが当たりである確率は1です。
何が当たりかは知らないけれど、当たりが決まる仕組みを知っている人にとっては、
Aが当たりである確率は1/2です。
これらの情報を全く持っていない人にとっては計算不能。
A,B,Cそれぞれが当たりである確率は等しいと仮定して、1/3と推測するくらいしかできません。
また、司会者が開ける可能性のある扉が2つある場合、
どちらの扉を開けるのかは無作為に決められるという条件も必要だと思われます。
無作為に決められるというのは、それぞれ選ばれる確率が等しいということです。
扉に1,2,3と番号がついていたとして、司会者はハズレの扉の内、番号が小さいものを開く
ということが仮に分かっていた場合、確率は変わってしまいます。
残った2つの扉のうち、大きい番号の方が開けられた場合、
開けられなかった方が当たりだと確実に分かります。
選択を変えれば、当たる確率1です。
小さい番号の方が開けられた場合は、選択を変えても変えなくても当たる確率は同じです。

持っている情報によって確率は変わるのです。
情報が足りなければ確率は計算できません。
モンティ・ホール問題は間違えやすいと言われていますが、
問題文が正しく書かれていなかったり条件が曖昧になっているのがその原因の一つではないかと思われます。
当たりの扉や司会者が開ける扉が無作為に決められるということは
書かれていないものがほとんどです。
これは無作為に決められると仮定して計算するのが妥当だとは思いますが、
こういう仮定をした上で計算をしているということは意識しておいた方がよいと思います。


ここで確率の基本をおさらいしましょう。
実験や観測の結果など、確率計算の対象とするものを事象といいます。
例えば、サイコロを振って出る目の状態とか、くじで何等が出るか等。
サイコロの場合、1の目が出る、2の目が出る、偶数の目が出る、などは事象です。
それ以上分けられない(分けない)事象を根源事象といいます。
サイコロの場合、1,2,3,4,5,6の各目が出るという6種類にするのが普通です。
サイコロが割れるとか、斜めに立つとかいう例外状況は無視します。
壁から何cmの地点にどういう角度で止まったかなども結果として捉えることはできますが、
あまり意味がないので考えません。
あらゆる事象は根源事象の組み合わせで表すことができます。
表せない事象があれば、それを根源事象にしてしまえばいいです。
根源事象がA1,A2,A3,・・・,Anのn個あるとします。
(根源事象が無限個となることもありますが、ここでは考えません)
それぞれの事象が起こる確率をP(A1),P(A2),P(A3),・・・,P(An)とすると、
それぞれの確率は0以上1以下。
i≠jであれば、AiまたはAjの事象が起こる確率はP(Ai)+P(Aj)であり、
P(A1)+P(A2)+P(A3)+・・・+P(An)=1です。

多くの場合、根源事象は同様に確からしいものとされます。
それぞれの根源事象の起こる確率は等しいと考えることが多いということです。
サイコロの場合、6個の目の出る確率はどれも等しい、
コインの場合、表が出る確率も裏が出る確率も等しい。
合計が1ですので、サイコロの各目の出る確率は1/6と計算できるのです。
このような場合には、ある事象がm個の異なる根源事象の組み合わせであれば、
その事象が起こる確率はm/nと計算できます。
こういう場合が多いので、根源事象が同様に確からしくない場合には
間違った確率計算をしてしまいがちです。



では、モンティ・ホール問題に戻りましょう。
次のような問題文であれば、厳密に確率の計算ができると思います。

プレイヤーの前に3つの扉があり、一つだけが当たりの扉です。
当たりの扉は無作為に決められました。
プレイヤーの選んだ扉が当たりであれば豪華賞品がもらえます。
プレイヤーが扉を選択した後、司会者はプレイヤーが選ばなかった扉の中から
ハズレの扉を一つ無作為に選んで開けて見せてくれます。
そして、プレイヤーに選択しなおす機会を与えてくれます。
プレイヤーはその機会に選択を変えるべきでしょうか?
もちろんプレイヤーは賞品が欲しいと思っています。

プレイヤーが選んだ扉をA、残りの扉をB,Cとします。
Aが当たりだった場合、司会者はBかCの扉を開けます。
この場合、選択を変えると必ず外れます。
Bが当たりだった場合、司会者はCの扉を開けます。
この場合、選択を変えると必ず当たります。
Cが当たりだった場合、司会者はBの扉を開けます。
この場合、選択を変えると必ず当たります。
選択を変えた場合に当たりになる確率は2/3です。

よくある間違いとして次のような考え方があります。
プレイヤーが選んだ扉をA、残りの扉をB,Cとして、
1.Aが当たりで、司会者がBを開けた場合
2.Aが当たりで、司会者がCを開けた場合
3.Bが当たりで、司会者がCを開けた場合
4.Cが当たりで、司会者がBを開けた場合
の4つの場合を考えます。
選択を変えてハズレになるのは1と2の場合。
選択を変えてアタリになるのは3と4の場合。
よって、選択を変えても変えなくても当たる確率は同じ。
これは上記1,2,3,4を根源事象と考えているわけですが、
それぞれが起こる確率は等しくないのです。
それを等しいとみなして計算すると間違った答えになってしまいます。

あのように4つに分けてしまっても計算は可能です。
一工夫することによって計算は可能です。
Aが当たりの場合、司会者はBまたはCの扉を開けます。
このとき、司会者はコインを投げて、表が出たらBを、裏が出たらCを開けるとします。
Aが当たりでない場合は司会者が開ける扉は一つに決まりますが、
あえてコインを投げてから扉を開けるものとします。
すると、次の6個の場合を根源事象と考えることができます。
1.Aが当たりで、コインを投げたら表が出た
2.Aが当たりで、コインを投げたら裏が出た
3.Bが当たりで、コインを投げたら表が出た
4.Bが当たりで、コインを投げたら裏が出た
5.Cが当たりで、コインを投げたら表が出た
6.Cが当たりで、コインを投げたら裏が出た
この6個が同様に確からしいというのは明らかですね。
Aが当たりなのは6個中2個ですので、選択を変えない場合に当たりである確率は1/3。
選択を変えた場合に当たりである確率は2/3です。
3と4をまとめて一つの事象とする場合は起こる確率が2倍だと考えればよいのです。

確率の基本をおさえて計算すれば、どのように計算しても答えは同じになります。
選択を変えない場合に当たりになる確率は1/3、
選択を変えた場合に当たりになる確率は2/3。
選択を変えた方が当たる確率が高くなりますので、
選択を変えるべきだという答えになります。

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