師走トオル著「ファイフステル・サーガ」1巻,2巻の内容に触れますので、
未読の方はご注意ください。
本書では自分の死を夢に見るという能力が出てきます。
一種の予知夢です。
そして、その未来は回避することができます。
この夢を見ていなければ、夢の通りに死んでいた。
しかし、この夢を見たことによって行動を変えることができる。
それによって死を回避することが可能なのです。
ここまでは特に問題はないと思います。
何年も先のことを正確に予知できるのもそういう力だと受け入れることはできます。
そもそも予知はそれほど特別な力ではないのですね。
コップを落としたら割れるとか、食べ過ぎたらお腹を壊すとか、
ちょっと先のことが予想できるのは別に珍しいことではありません。
その精度が桁違いというだけです。
しかし、本書ではこの能力の現れ方に問題があると思います。
主人公は歴代最強と呼ばれる怖ろしく強い騎士に決闘を申し込みます。
殺せるなら遠慮なく殺せと言います。
決闘は10日後です。
その夜に見た夢では主人公は胸を貫かれてあっさり死にます。
毎日殺される夢を見ながら対策を練り、ついに決闘で死ぬ夢を見ないようになりました。
そして決闘当日、主人公は勝つことはできませんでしたが、殺されずに済んだのです。
最初に読んだときには特におかしいとは思いませんでした。
しかし、よく考えるとこれはおかしいのです。
仮に決闘で死ぬ夢を1回見れば対策を立てることができて死なずにすむとしましょう。
決闘が決まってから決闘当日まで夢を見る機会は10回あります。
1日目の夢の中では主人公は9回夢を見る機会があるのです。
当然死は回避できるはずです。
つまり、1日目の夢では主人公は決闘で死なないことになります。
2日目、3日目も同様です。
これは9日目まで続きます。
9日目の時点ではもう一回夢を見る機会がありますから、
そこで対策を立てて死を回避することができます。
9日目の夢でも決闘では死にません。
10日目の夢で初めて状況が変わります。
もう決闘までに夢を見る機会はありませんので、
対策を立てられず決闘で殺されることになります。
つまり、1日目から9日目までは決闘で死ぬ夢は見ない。
10日目に決闘で殺される夢を見る。
対策を立てて決闘に挑み、死ぬなずに済む。
という流れになるはずなのです。
対策を立てるのに2日以上かかる場合も同様です。
対策を立てるのに決闘で死ぬ夢を8回見る必要があった場合は、
1日目、2日目は決闘で死ぬ夢を見ない。
3日目から10日目まで決闘で死ぬ夢を見る。
8回夢を見たので対策を立てることができ、死なずに済む。
という流れになります。
10回必要な場合は毎日決闘で死ぬ夢を見て、決闘では死なずに済みます。
11回必要な場合は決闘での死を回避することはできません。
いずれの場合も、最初のうちは決闘で死ぬ夢を見て、ある時点から見なくなる
という展開にはなりません。
1回見て回避できるような死は前日にならないと夢で見ることはできないのです。
普段は老衰で死ぬというような夢で、他の死はその直前の夢だけで見るということになるでしょう。
他に矛盾ではないけど気になったところは、本番直前の主人公の言動です。
夢の中では毎回相手に「本当に殺してもいいんだな」と念を押されていたのですが、
本番のときにはそれを言われる前に殺しても構わないということを言ってしまいます。
せっかく死なずに済む方法を見つけたのに、言動を変えたら台無しじゃないですか。
それが原因で相手の行動が変わってしまったら予知した意味がないです。
主人公のこの言動は軽率過ぎると思いました。
そして2巻に入ると主人公は毒殺される夢を見ます。
それまでは別の夢を見ていたのが、内容が変わりました。
この変化はある噂を流したことによるものだろうと考えます。
この噂は予知夢とは関係なく主人公が思いついたことです。
これはおかしいですね。
未来が変わるのは予知夢を見たことによって行動を変えたときだけ。
それ以外の行動はすべて予知されているのですから。
この辺も作者が予知夢について深く考えていないことを示しています。
予知の出てくる小説などはたくさんありますが、
発動の条件がよく分からなかったりして、
都合よく使われているだけと思えるものが多いです。
このシリーズでは条件がはっきりしていてその点はよいのですが、
せっかくの設定をロジカルに適用できてないのが残念です。
このように設定には問題があると思いますが、話は面白くて楽しめます。
現時点で4巻まで刊行されています。
私は2巻までしか読んでいませんが、4巻まで購入済です。
そのうち読みたいと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿