2018年4月30日月曜日

バナッハ=タルスキーのパラドックス 終章

序章、本編と続いてきたこのシリーズも今回で最後です。
バナッハ=タルスキーのパラドックス 序章
バナッハ=タルスキーのパラドックス 本編

前回は具体的なパラドックスの内容を見てきました。
体積が異なる図形が分割合同になってしまうという矛盾。
数学界において矛盾の存在は致命的です。
なんとかしてこの矛盾をなかったことにしたいですね。

そこでよく槍玉にあげられるのが選択公理です。
選択公理とは、
複数の集合のそれぞれから1個ずつ元を選んで、それらを元とする集合を作ることができる
というものです。
例えば、次の3つの集合
{1,2,3},{A,B,C,D},{パソコン,モニター,キーボード,プリンター}
のそれぞれから3,D,プリンターを選んで、{3,D,プリンター}という集合が作れます。
そんなのできて当たり前でしょと言いたくなりますが、
集合が無限個あった場合には無限回の選択を行うことになるので無理という人がいるんですね。
どこに選択公理が使われていたかというと、
各軌道からSの点を一つずつ選んで集合Mを作ったところです。
軌道の数は無限個なので、このような選択はできないと言いたいようです。
ですが、実際に作ることができないからといって、その集合の存在が否定されるわけではないですよね。
選択公理を認めなくてもあのような分割が存在することに変わりはありませんので、
数学的に矛盾が生じるという問題を解決することはできません。
そもそも数学において現実にはできないとか言い出すのは意味がないと思います。
数学は現実世界の諸々を無視して抽象化、理想化された世界で考える学問です。
思考実験みたいなもので、前提が現実的かどうかは関係ないのです。
幾何学なんて、点は大きさをもたないとか線は幅を持たないとか最初から無理なことを前提にしています。
幅のない直線を書くなんて現実にはできないでしょう?
球の分割に出てきた集合は離散集合ではないですが、くっついていない稠密な点の集合です。
有理数点とそうでない点の集合の分割も同様に稠密な点の集合になります。
(有理数点とはx,y,z座標がすべて有理数の点です)
球を有理数点の集合Aとそうでない点の集合Bに分割することを考えてみましょう。
この集合には選択公理は必要ないと思いますが、現実に作るのは無理でしょう。
無限個のばらばらの点があるのですから、作るのに無限の時間が必要だと追われます。
仮にできたとしてもその集合を一つの物体として動かすことは無理でしょう。
作った瞬間に重力でつぶれると思いますし、重力を無視しても、動かそうとした瞬間に形が崩れるでしょう。
形を保ったまま動かそうと思えば、無限個の点の位置を把握してすべての点に等しい力を加えないといけません。
そんなことは不可能ですね。
一つの物体として動かすことができるとしてもAとBを分離することはできないでしょう。
仮に分離できたとすると、Aの点の経路はBとは全く重ならないことになりますので、
その経路は有理数点のみで構成されることになります。
Aに連続する部分があることになりますので矛盾します。
選択公理など持ち出すまでもなく、現実には無理ということです。
要するに選択公理はこのパラドックスには全く無関係なのです。

では矛盾を解消するためにはどうすればいいかというと、
分割合同の定義を修正するべきだと私は思っています。
図形Aと図形Bが分割合同とは、
図形Aを有限個の集合に分割し、それらを組み合わせることによって図形Bを作ることができる
ということでした。
この「有限個」というところは非常に重要です。
無限個に分割してもいいのならすべての多面体は分割合同になってしまいます。
証明してみましょう(笑)。
まず、AとBを任意の線分とします(長さは0ではありません)。
A上のすべての点とB上のすべての点を一対一に対応させることができます。
線分Aの長さをa、線分Bの長さをbとします。
A,Bそれぞれの端点を一つ決めて、A,B上の点の位置はその端点からの距離で表すことにします。
A上xの位置にある点とB上x*b/aの位置にある点を対応させればよいです。
AとBを任意の凸多面体とします。
Aの表面上の任意の点をP、Aの内部(表面は除く)の任意の点をOとすると、
線分OP上の点はPを除けばすべてAの内部の点です。
逆に任意のAの点はこのような線分上の点です。
AとBが共通部分を持つように移動させ、OがA,Bの内部の点になるようにとります。
Oを起点としてAの表面の点Pを通る半直線とBの表面とは1点で交わります。
その点をQとすると、OPとOQは一対一に対応します。
OP上の点とOQ上の点も一対一に対応します。
よって、Aのすべての点とBのすべての点は一対一に対応させることができます。
A,Bが多面体の場合。
任意の多面体は有限個の凸多面体に分割することができます。
多面体の各面を延長してできる平面でその多面体を切断してやればよいです。
凸多面体をある平面で切断してできる多面体は凸になります。
これらのことは凸図形の性質から簡単に分かります。
ある図形が凸とは、その図形内の任意の2点を結ぶ線分がその図形内に含まれるということです。
どの2点を結んでも線分が図形をはみだすことがないということです。
多面体の各面を延長してできる平面でその多面体を分割したものの中に
凸でない多面体Cがあったとすると、
その多面体内のある2点を結ぶと、その多面体からはみだす部分ができます。
はみだした部分の線分(一つとは限りませんが)の両端P,Qはその図形の表面の点です。
P,Qが多面体の同じ面にある場合ははみ出しませんので異なる面上の点です。
点Pを含む面で切断した場合にCとなるのは線分PQを含まない側です。
しかし、これはQがCの点だということに矛盾します。
よって分割されてできたすべての多面体は凸です。
凸多面体をある平面で切断してできる多面体は、各面を延長した平面で切断しても
それ以上分割されることはありませんので凸です。
A,Bのそれぞれは凸多面体に分割することが可能であり、
個数が少ない方をさらに分割していけば同じ個数の凸多面体に分割できます。
凸多面体1個ずつであれば、すべての点を一対一に対応させることができますので、
全体としてもすべての点を一対一に対応させることができます。
つまり、無限個の点を1個1個移動させることによって、任意の多面体に変換することができるのです。
これでは体積を考えても全く意味がありません。
無限個に分割した場合はこのように体積が変わってしまうことがありますので、
これを分割合同と考えてはよろしくないということになります。

バナッハ=タルスキーのパラドックスに出てきた分割では球を有限個に分割しています。
しかし、分割された集合を図形とみなしていいのか私は疑問に感じます。
球の分割のそれぞれの集合を一つの図形とみなし、体積が定義できるとすると、
分割合同な図形の体積が異なるという矛盾が生じます。
体積を定義すると矛盾が生じるのですから、体積を定義することが不可能なのです。
0で割ることが定義できないようなものです。
体積が定義できないようなものが図形と言えるのでしょうか。
体積が定義できないようなものに分割したあとに体積の話をしても意味がありません。
分割合同は体積が定義できる図形に分割したときに限る必要があると思います。
「一つ」の図形というところにもひっかかりを感じます。
三角形と四角形と円が紙に書いてあったら3個の図形ととらえますよね。
まとめて1つの図形として定義すれば1個と考えることもできるって言う人はよほどひねくれた人です。
くっついていないものは別の図形と考えれば、あれは無限個の分割ということになります。
分割合同は有限個の連結な集合に分割したときに限ることにすればいいと思います。
連結というのは、その集合内で任意の2点を結ぶ道が作れるということです。
(厳密には弧状連結)
そんなのは不自然だと言う人がいるかもしれませんが、
無限個の分割では分割合同とは認めないというのも不自然です。
おかしなことが起こるのですから、そういうことが起きないように制限を加えるしかないのです。
もともと大きさのない点を無限個集めると体積を持つとか、前提に無理があるんです。
そこを突き詰めていくとおかしなことが起きるのは当然といえば当然です。
人類が無限のことを完全に理解するのは無理なのです。
能力も使える時間もどうあがいても有限でしかないのです。
理解できないものを扱うのであれば、多少の問題が起きるのは仕方ありません。
都度修正をしてだましだまし付き合っていきましょう(笑)。

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